後見制度は慎重に⑤

諸事情から題名が変わりました。

本というのは(全てかどうかは分かりませんが)章ごとに文字数が決まっているようです。

エンディングノートが出てくる前に文字数(私の場合15000字)を使い果たしました。

気に入っていたタイトルだったのに(-_-;)

前回まではこちら

 

www.akihiroha.com

 


「そういえば川崎様のお母様もよく飲まれますよね。血は争えないってこの事です。あっこれも褒め言葉です」

なんだろうかこの言いようのない感情は。
一瞬心配した私が馬鹿みたいに思えてきたぞ。
まぁここは大人の対応で聞き流すとするか。

「そうなんですか。母が同じサークルに入ったんですね。そんな事これっぽちも知らなかったです」
「最近駅の下にできたお寿司居酒屋です。四時から七時までは半額なんですよね。近所に美味しい焼き鳥屋があるのでその後は僕はそこに行こうかと思ってるんです」

そう言うと先生は嬉しそうに立ち上がり、そろそろお事務所を閉めないとと、またぶつぶつ呟いててきぱきと動き出した。
やれやれ、さっきまで眠そうだった目が急に輝きだした。
全く仕事の方もそのくらい頑張れば良いものを。
ん、待てよ、さっき明日の予定の時の沈黙は今日の飲み会が原因なのかしら。
ひょっとして面談を午後にしたのは前日が飲み会だからか。

先生マジですか。
これで所帯でも持てば少しは仕事にやる気も出るのかしらって、まあ私が心配する事でもないか。

「じゃ夕飯の支度もあるのでそろそろ帰ります。咲のお婆様の件よろしくお願いします」
「勿論です。承知いたしました。明日は必ず遅刻しないで伺います。ありがとうございました」

えっ、遅刻しないってそこですか先生。
何か言うべきか迷ったが飲み会の頭がいっぱいだろうし言っても無駄だろうから、不安を抱えつつ事務所を後にした。

来た道を戻りバスに乗り駅に着くと確かにお寿司居酒屋があった。
そのお店の前には何とも形容しがたい、人目をひく高齢者の集団があった。
まさかとは思ったが横目でみるとその集団の中心には母がいた。
人の集まりというよりはトドの群れだ。
しかしこの群れに呼ばれるところを見ると先生も人間的には悪くない人なのだろう。
ちょっとした生贄みたいなものなのかもしれない。

幸いな事にトドの中心にいる母には気づかれていないようだ。
ここで話かけられるとトドの娘という事になってしまう。
しかしトド、ではなく人間だが年齢とともに羞恥心というものが減少していくようだ。
何も半径十メートルまで響く声で話さなくても良いと思うが、そもそも耳も遠くなる頃だろうから仕方がないのかもしれない。
こちらに気づいていない様なのでさっさと駅の改札口へと向かった。

京浜急行は電車が近づくと歌謡曲が流れてくる駅がある。
例えば「秋桜」「横須賀ストーリー」「夢で逢えたら」などがある。
この駅はなんだろうと耳を澄ませてみるとまさかの「ゴジラ」だった。
ヅヅヅ、ヅヅヅ、ヅヅヅヅヅヅヅ、あのメロディが流れてきた。
先程のトドの集団が、このゴジラのメロディ、ヅヅヅと共に降りてきた風景を想像すると不思議な事に違和感ゼロだ。