後見制度は慎重に⑥

第6回目。

前回はこちら

 

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 今回から奥様ちょっと登場。

 

某お寿司居酒屋

「なんか鼻がムズムズするわ」
「由紀子さんのご主人が噂してるんじゃないかしら。俺一人置いて飲みに行きやがってって」

そう言うのは私をサークルに誘ってくれた宮田さんだ。

「いいのよたまには。どうせ娘が遊びに来るって言ってるし。夕飯の支度も頼んでるから大丈夫。たまには羽伸ばさなきゃね」
「それにしても先生、いい飲みっぷりですね。もう何杯目ですか」
「えっまだ四杯目ですよ。久しぶりの飲み会なので嬉しくなっちゃって。今日は飲んじゃいますよ」

しかし良い飲みっぷりだ。
目が輝いている。
しかしストレスが溜まるほど仕事をしているとは思えない。
心底お酒が好きなのだろう。

「ところで山本先生、この際だから幾つか教えて欲しい事があります」

御年八十三歳とは思えない声で美佐婆が手をあげたのだが真っ直ぐに手が伸びず、横の男性、田吾爺の左頬にヒットした。
確か田吾爺は御年八十歳、今のパンチで享年にならなければよいのだが。

両人の間ではこの三歳が大きいという事だがはたしてどうだろうか。
確かに一歳と四歳とでは明らかに違いがあるが、八十と八十三とではさして違いはないだろう。
少なくとも私はこの三歳の差に大きな違いがあるとは思えない。
しかしこの二人を見ると歴史サークルというより老老介護に近いものがあるが、決して他人ごとではないので笑えない。

「私でお答えできる事があれば何なりと」

そう言うと先生は本日五杯目のウーロン杯を注文した。
私も娘の亜紀も飲む方だが先生もなかなかどうして負けていないではないか。
まあ勝ち負けは関係ないか。

「先生、私くらいの年齢になるともねぇ、良いんでしょうか」

ん、今の言葉を頭の中で冷静に数回反覆してみた。
やはり目的語が入っていない。
それに先程幾つか教えて欲しいと言ったと記憶しているがこれでは回数など関係ないのではなかろうか。

「それで大丈夫ですよ」

冷静に先生が答えるが明らかに問いと答えが一致していない。
それとは一体何を指すのか皆目見当がつかないが美佐婆はにっこり笑ってお礼を言った。
摩訶不思議な会話で通じるから驚きだ。
不謹慎ではあるがこのやり取りがあるからこのサークルは面白いのだ。

この際だから私も聞いてみよう。

「先生、私も質問があります」
「何でしょうか川崎さん」

そう言いつつ先生は六杯目の梅酒サワーを注文した。
早すぎる。

「抽象的な質問になってしまいますが終活って何をすればよいのですか。終活という言葉はよく耳にしますが、具体的に何をすればいいのか正直よくわからないんです」

「そうですね。確かに終活という言葉は雑誌、テレビ等で頻繁に使われますよね。細かいことを言えばきりがありません。大きく分けると①自分の老後と②自分が亡くなった後の姿に分けられると思います。ここを一緒くたにすると混乱のもとです」

 

想いを紡ぐ墓じまい: in 横須賀 (∞books(ムゲンブックス) - デザインエッグ社)

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