エンディングノートと死後事務委任⑧

 やっと一段落つきました。

前回のは以下です。

www.akihiroha.com

 

 

 

東京湾

「いやー凄くきれいな海ね。空もきれいだし。亜紀さん一緒に来てくれてありがとね」
「こっちこそ、一度経験して見たかったからね。可愛い後輩の頼みは無視できないわよ。それより咲、よくお父さん納得してくれたね」
「なんか面倒くさくなっちゃたんじゃないかしらね。それに実の親の最後の願いだからね」
「成程、お嫁さんの方はどうだったの。確か義理のお義母さんよね」
「そう、義理の母なんです。結局お父さんに任せたみたい。お婆ちゃんが先生と契約を結んだって事で面倒くさくなりそうな予感でもしたんじゃないですか。もしかしたら弁護士が出てくるかもって話していたし」
「へぇそうなんだ」

さてその先生は生きてるのかしら。

「ちょっと先生の様子見てくるね」
「はい」

「先生、生きてますか、吐いちゃった方が楽ですよ」
「大丈夫、です。船に弱いわけではないんです」

「昨日結構飲まれたんですか」

「日頃私をいじめるからその罰があたったんじゃないですか」

「先生、生きてますか」

先生は答えない。
相当苦しいんだろう。

「ちょっとトイレ、行ってきます」

やれやれだ。
私達が付いて来たから良かったものの。

「じゃ私は咲の所に行ってますよ」

海洋散骨に初めて参加したが女性に人気だというのもうなずける。

「亜紀さんそろそろ始まりますよ」
「今行くわ」

皆が集まる。
それぞれが思いを抱いて散骨する。
おばあちゃん、できたお孫さんでよかったね。
それにしても最期を託すには頼りない人を選んじゃったみたいですね。

山本行政書士事務所

「それにしても人の事務所きてよくまあ飲んで食べますよね」
「えっ、えっ、先生が差し入れもって遊びに来たらどうですかった言ったから、はるばる来たのに。殴って良いですかマジで」
「冗談ですよ。忙しい案件も片付いたのと東京湾に来てくれたお礼を兼ねてですね」
「ごめんなさい、意味が分かりません。お礼なら差し入れ持って来いなんて仰らないですよね」
「最近、ちょっと手元が寂しいものですから助かりますよ」
「本当かしら。あっ咲がよろしくって言ってました」
「いえいえ僕は何もしてませんよ。それ食べ終わったら近くの焼き鳥屋行きますか」
「そのセリフ待ってました。ところで先生、私が来たとき難しい顔して手紙読んでましたよね。しかも私に気づいて慌てて隠しましたよね。なんですかそれ」
「ラブレターです」

いけしゃあしゃあとよく言うわ。

「私、グーパンチ結構強いですよ」
「もしかして焼いてくれたんですか。素直に嬉しいです」

この前向きな性格はホント尊敬しちゃいますよ。

「でもこれはね、天国からのものなんですよ。そうそう亜紀さん、そろそろ焼き鳥食べに行きますよ」

仕方ない、付き合ってあげるとするか。


手紙

山本先生、
この手紙は私が息を引き取ったら先生に送ってくれるよう施設の職員さんに頼んだものです。
このような形式が許されるか分かりませんが書いてみました。
確か遺言が二つあったら抵触する箇所に関しては後の方が優先するのでしたよね。
ここに二つ目の遺言を書きます。
もし私の遺骨が樹木葬もされず、また海洋散骨もされない場合に備えて以下の遺言を書きます。

第一条(不動産の遺贈)
遺言者である緑川トシ所有の下記不動産を緑川咲に遺贈する。

第二条(預貯金等の遺贈)
遺言者は遺言者の有する預貯金等前期不動産以外の財産を緑川咲に遺贈する。

第三条(相続人の廃除)
遺言者は相続人緑川聡を排除する。
廃除の理由は以下のとおり。

私の息子である緑川聡が私のお骨を嫁ぎ先のお墓に入れ、亡き息子と離れ離れにすることは、例え過去の裁判でお骨の所有権が葬儀を取りはかった人間にあるとしても、私に対する、もっと言えば私の魂に対する、民法八百九十二条規定の侮辱行為であり、同条項に基づき緑川聡を相続人から外す事にする。

第四条(遺言執行者)
遺言者はその執行者として次の者を指定する。

遺言執行士 山本 弘

付言事項
最後に私の亡き息子の遺骨についてですが、お寺に永大供養の申し込みをしてください。
どのお寺かは先生にお任せします。

八月一日 緑川トシ。

最後にこの二つ目の遺言が日の目を見ない事を切に切に希望する。