5、エンディングノートと終活講義・前半②

 
 
 
妻の話では、昨日の飲み会でそう目尻を下げて上機嫌で話していたらしい。
とにかく大演説だったそうで並々ならぬ気合いの入れようだったそうだ。
大方その職員さんが美人で鼻の下を伸ばしてほいほい引き受けたのが関の山だろう。
そう推察していたが先生に話しかけた職員さんは、はたして和久井映見に似た眼鏡が似合う美人だった。
自慢じゃないが娘の亜紀もトドから生まれたとは思えないくらい美人で、女優の安藤サクラに似ている。
目の前の職員さんとは真逆であるが美人である事にはかわりはない。
ちらりと横をみると先生の目尻は下がっていてなんともしまりがない。
やれやれだ。
そういえば、亜紀とよく食事に行っていると聞いていたが進展はないのだろうか。
お似合いの二人だとは思っていたが、付き合ってるとは一度も聞いた事がない。
先生の行く末も心配だが娘の行く末は更に心配である。
まぁお互い大人なので、私がとやかく言う筋合いではなかろう。
私も松坂慶子似のお気に入りの職員さんがいるから人の事は言えない。
最近では私に向かって四郎さんと話しかける職員さんが夢に出てくる事がある。
残念なことに、目が覚めると松坂慶子は消え高いびきをかくトドが隣にいる。
ままならないのが人生である。
しかし仕事がたまってるが実は暇で最近は本ばかり読むというのは矛盾しているのだが、要するに本人が仕事と言っているのは遊びの延長の様なものであろう
色々仕事がたまってるのは結局趣味で忙しいわけだ。だいたい仕事に忙しい人間が週一回のお昼の歴史サークルに参加して、暇さえあれば図書室に行って本を読む事なんてできるわけがなかろう。
それでいて事務所の経営が苦しいと時々ぼやいているが当然な話しである。
一度頭の中をかっぽじって覗いてみたいものだ。
そういえば遺言執行士というあまり聞いた事のないし資格もあるとの事だ。
意外と優良顧客をつかんでいるのかもしれない。
そもそも遺言執行士って何だろう。
後で聞いてみよう。
以前説明を受けた記憶はあるのだが当然思い出せない。
実は今日の講師の山本先生とは九州にある私の実家と、四国にある妻由紀子の実家の墓じまいを通じて知り合ったのだ。
墓じまいと文字にすると五文字だが、行政手続き、石材店や住職との話し合い、離檀料ひいてはみなし墓地等なかなか手間がかかる。
実際、離檀料を吹っ掛けられた時は正直墓じまいを諦めかけた。
そういう意味では墓じまいを業務にしている先生と知り合えたのは幸運だったのかもしれない。
その後も先生とは交流が続いており今では家族付き合いをするまでの仲になり、妻の由紀子に至っては先生が入っている歴史サークルに入会して率先して飲み会に参加している。
それを繰り返してトドが完成されたのだが今更嘆いたも仕方あるまい。
しかし先生は、私たち夫婦にとっては息子みたいなものなのだ。
美人に弱そうなところはまるで自分を見ているようで情けなくなる。
「エンディングノートという言葉は耳障りの良い言葉です。しかしそこに書かれている内容は気軽に書ける事柄から、腰を落ち着けて試行錯誤しながら書く事柄もあります。時には専門家に相談が必要な場合もあります玉石混交に近いと私が感じます」
そう言うと先生は咳払いして「玉石混交なんです」と強調した。
悦に浸って二度同じ言葉を繰り返したところをみると本人は言い得て妙と感じているのかもしれない。
しかしよく考えると意味合いが若干違う様な気もするが、まぁ言いたいことは分かる。

 

想いを紡ぐ墓じまい: in 横須賀 (∞books(ムゲンブックス) - デザインエッグ社)

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