12、エンディングノートと終活講義・後半③

 

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「皆様、今話しているのは死後の事務、つまりなくなった後の手続き全般の事です。死後、発見された時の身体の状態のことではありません。ここまでは大丈夫でしょうか」

 教室の中に失笑が入り混じった。

「ここで一つ事例をあげます。例えば自分が亡くなる事を想定して葬儀とお墓について書いたとしましょう」

 

教室の皆が真剣な眼差しに変わった。

遺言以上に身近な問題と認識しているのだろう。

 

「どんな葬儀でも良いのですが、昨今人気の高い家族葬にします。次に埋蔵、つまり火葬した後の遺骨をお墓などに納骨することですが、これは人気急上昇の樹木葬とします」

 

反応がまばらに分かれている。

頷く人もいるが、ちょっと意味を把握しかねてる人もいる。

 

「今言った内容をエンディングノートに記載します。この家族葬と樹木葬を合わせて金額はどれくらいでしょうか。仮に家族葬を四十万、樹木葬を六十万とすると計百万です。これを安いと考えるか、高いと考えるかは人それぞれです。少なくとも日々の支払いに頭を抱えている私には高額です」

  

それなら外で飲むのを止めたら良かろう。

毎週飲んで肉や刺身を食ってたら財布の中身も寂しくなるのは想像に固くない。

 

「エンディングノートに書いたことが守られるがどうかは、お金の問題がクリアになるか否かが重要になります。お金の用意がなく葬儀とお墓について書いたとしても絵に書いた餅になりかねません。先程も申し上げましたが、お金の用意がなくても遺族が故人の意思、つまりエンディングノートの内相を尊重する事もあります。そういう意味も含め重要なのは残された家族と良好な関係を保っているか否かです。実際葬儀をするにせよ、お墓探しをするにせよ、結局残された人間が行います。エンディングノートは万全ではないわけです」

 

お通夜の様な静けさに変わった。

最前列の女性は目を瞑り首を振っている。

その後ろの女性は深々とため息をついている。

皆多かれ少なかれ問題を抱えているのだろう。

 

「家族が居る場合は何とかなる事もありますが。しかしこれがお一人様になるとそうはいきません。自分が亡くなった後の事を誰かに託さなければならないのです。その様な時に第三者に自分の死後の事を頼むのが先程申し上げました死後事務委任契約になります」

 

一つ疑問が出てきた。

 

「質問してもよろしいでしょうか」

 

「勿論ですどうぞ」

 

「エンディングノートには法律上の効果はない。日頃の家族との関係性を保つ事が重要だというのは分かりました。逆に家族との関係性が良ければわざわざ死後事務委任契約を結ぶ事は不要ではないでしょうか。その場合はエンディングノートでも構わないのではないかとと思いました」

 

「勿論不要の場合も当然あります。ここで一つ具体例を上げてみましょうか。高齢夫婦と長女がいたとしましょう。ここで父親が葬儀は不要と考えてそれをエンディングノートに残しました。それを妻も長女も納得しています。いざ亡くなった時に父親の兄からきちんと葬儀をあげろと強い口調で迫ってきた場合どうでしょう。父親の意思がエンディングノートに書いてあったとしても、父親の兄は納得できないとなると、エンディングノートでは解決できません。これがエンディングノートの限界です。勿論妻と長女が突っぱねて頑張る事もあるでしょう」

 

何だかため息が出てくる。 

死んだ後の事は自分で決められないのか。 

 

「先の事例では亡くなった方の兄を登場させました。更に家を出て離れて暮らしている長男が居たとして、長男も葬儀不要に反対した場合、この優しい響きをしたエンディングノートが紛争の種になりかねません」

 

頭が痛くなる。

 

「正直に言ってここまでの事を想定して死後事務委任契約を結ぶ事は、あまり多くないです。ですから今日の話をきっかけに少しずつで結構ですので御自身の現状を整理して頂けたらと思います」

 

何だか先が思いやられる。