15、エンディングノートと終活講義・後半⑥

 

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「皆さん、申し訳ありません。渡すのを忘れていました。エンディングノートを作る際の注意点をまとめたレジュメです。よかったらエンディングノートを作る際の参考にして下さい。あれっ、結構人数減ってますね。帰られた方とお知り合いの方が居らっしゃいましたらこちらお渡しください。沢山作りましたので、この山本作エンディングノートレジュメ、ご友人の方にも是非お渡しください」

 

半数近く帰ってしまっている。

予想通りやはり抜けている。

最後の最後まで気を緩めては駄目なんですよ。

山崎さんと話しながら廊下に出ると先生も後を追うようにやってきたが私たちには目もくれず、金谷さんがいる方向に向かって行った。

傍目には楽しく話しているように見えるが、残念ながら金谷さんが軽くあしらっているようだ。

そんな様子を見ていると階段を上って一人の女性がやってきた。

どこかで見覚えのある女性だとよく見ると、何のことはない娘の亜紀だ。

本を返すついでに私を迎えに来たとのことだ。

しかし金谷さんと話すのに夢中で目尻も口元もデレデレになり今にも手を握りそうな勢いの先生は亜紀に気付いていない。

その二人を見つけた亜紀の右目がピクリと動いた。

怒りのサインである。

私はわざとらしく咳払いをするが当然先生には聞こえない。

そんな二人が居る方向に亜紀は向かって歩いて行った。

その足音に気付いた先生は、一旦後ろを振り向いた後、再度目を見開きながら後ろを振り向いた。

長い人生、ここまで見事な二度見を私は見た事がない。

 

「お話し中失礼します。図書室はどちらにありますか」

 

亜紀がわざとらしく金谷さんに話しかけた。

何度も図書室に来ているはずだから場所は知っているはずだ。  

この嫌らしさは間違いなく妻似だろう。

後ろ姿しか見えないが明らかに先生の背中は動揺している。

ヘビに睨まれたカエルである。

冷静に考えると亜紀と先生は別に付き合っているわけではないのだろうから堂々と金谷さんと話を続ければよいのだ。

しかしあの動揺した姿を見ると明らかに不埒な事を考えていたのだろう。

本を返した亜紀が戻ってきた。

先生が亜紀に話しかけるが塩対応されている。

ふいに二兎を追う者は一兎をも得ずということわざを思い出した。

耳にする事はあるが目の当たりにするのは初めてである。 

しかし二兎を追うような器用な真似ができるとは思えない。

その場その場で相手にいい顔するのが関の山だ。

可愛そうだが私にはどうすることもできない。

先生も、私が今日のエンディングノートの講座に参加して妻にも今日の事を話したのだから、亜紀の耳に入ることは考えなかったのだろうか。

残念ながら肝心なところで抜けていることは否めない。

金谷さんは事態を察し事務所に戻った。 

先生はあれは誤解だと亜紀に訴えているが亜紀は全く聞く耳を持たない。 

私は亜紀から車の鍵を借り、雨降って地固まってほしいと考えながらその場から離れた。