19. 番外編・遺骨の行方③
概略を伝えた後、先生が口を開いた。
「一言で言えば亡くなったお子さんの遺骨を父親のお墓に入れるか否か、という事ですよね」
「そうなんです。それをしたら奥さんが怒るでしょう」
「奥さんに言う必要はないです。仮に寺院の規則でお墓に入れるのは親族に限るとあってもお子さんであればもっとも近い存在です。今聞いたお話しですと認知はされてないようですが、お子さんと認めているとして話をすすめます。問題は奥さんを含めてご家族に内緒ですと、今はよくとも後々トラブルになる可能性は否定できません」
「そうですよね。難しいのは分かってますが何とかしてあげたいです」
「私が思い付く方法としては二つです。一つ目はその女性の言う通りにする。二つ目はその子供の為にお墓を立てる。二つ目の方法を取ったとしても問題はあります。その女性がどうしても父親と息子を一緒にしたい場合です。こうなると父親である方にある種の覚悟が必要になるでしょう」
「覚悟ですか」
「はい。父親と息子が一緒とはつまり父親が亡くなった後の話です。息子が眠るお墓に父親の遺骨を納骨する役目を誰か信頼できる相手に託す事になります。ただ亡くなった後、息子が眠る墓だけに入るのでは今の家族は納得できないでしょう」
話しが複雑になってきた。
そもそも家の外と中に家族があるわけだから当然だ。
「ではどうしたらよいでしょう。今朝食べた物を思い出せない私の頭ではお手上げです」
そうなのだ。
人の心配している場合ではない。
「大丈夫ですよ。僕は食費浮かす為に朝ご飯抜かしてますから」
それはそれで笑えない。
「やはり分骨が妥当なところかと考えます。つまり自分が亡くなった後、骨を今のお墓と、これから作るお墓に納骨するわけです。問題はそれを誰に託すか。お子様か、第三者か。勇気があれば奥様でも良いですが、あまりお勧めしません」
最後の一言は冗談として受け取ろう。
その後も暫く世間話しをして先生と別れた。
相談料を支払うと言ったのだが、この前ご馳走してもらったから不要と強く断られた。
珍しい、明日は雪か。
別れ際に先生がポロっとこぼした。
「これは単なる想像ですが、その女性は息子の死を一緒に悲しんでほしかった、ただそれだけの様な気がします」
数日後、久里浜の図書館で鹿島さんと会った。
先生との話を伝えてみたところ暫く押し黙り、自分が撒いた種なので自分で解決する、その為にはもう一度彼女と会って話をすると言い、私に礼を延べ帰って行った。
その後、小説を借りて館内を出た。
近くのショッピングセンターまで来た後、車で来た事に気付いて図書館の駐車場に戻った。
車に乗り込む直前少し離れた所にいる猫がこちらを向きニャーと鳴いた。
どうやら野良猫にも心配されたようだ。
複雑な気持ちで家に帰ると聞き覚えがある三人の声が聞こえてきた。
今日は四人で食事をする予定だったが忘れていた。
人間は忘れる生き物なのだ。
あるがまま受け入れるしかあるまい。
これはこれで悪くない。
忘れて困る事はエンディングノートに書いておけばよいのだ。
それにしてもお腹がすいた。
三人の顔を見に行こう。
家の中ではいつものありふれた風景が目に飛び込んできた。
トドと、やきもち焼の娘と、ちょっと抜けている先生との夕飯は、掛け値なしに美味しい。