20.番外編・墓じまい行政書士①

 

 

www.akihiroha.com

 

 

小物を扱っている馴染みのお店の江崎さんからお煎餅を進められた。

「それにしてもこのお煎餅パリパリして美味しいわね。あらっ、これって、しらすかしら」

 

「そうよ、三笠公園の近くにあるお店で買ったの。日本酒にも合うわよ。まだまだあるけどどうかしら」

 

「食べたいけどこれ以上太ったら、主人や娘になんて言われるか分からないし」

 

最近、いや昨年、いやもっと前からかしら。

主人や娘の私を見る視線が明らかにおかしい。

私の顔より先にお腹のあたりをみてから再び顔を見る。

主人こと、ど忘れ四郎は自分のど忘れを棚に上げて私を、正確には私のお腹周りを見て露骨に顔をしかめる。

娘に至っては、私はお父さんに似ていくら食べても太らない、素晴らしい遺伝子に感謝と小さい声で呟く。

いくら小声でも隣に居たら嫌でも聞こえる。

おそらく私に対する当て付けね。

二人を見返す為にも少し痩せないと。

 

「由紀子さん。おーい、由紀子さん。大丈夫ですか。凄い真剣な表情ですけど、何か悩みがあれば聞きますよ」

 

あらっ、いけない、考え事をしてたせいで江崎さんの話しかける声が聞こえなかった。

まぁそれだけダイエットにかける思いは真剣だってことよ。

でも思うだけじゃ駄目なのよね。

 

「ごめんなさい、ちょっと考え事しちゃって。アハハ。じゃそろそろ帰ろうかしら」

 

ちょうどその時新しいお客さんが入ってきて、江崎さんに会釈した。

営業の邪魔をしては悪いと思い店内の商品を暫く見ていた。

二人は真剣に話しこんでいる。

私はお菓子も食べられたし、お目当ての物も買えた。

江崎さんは今のお客さんと話し始めたので、二人に会釈をしてお店を出ようとしたところで、江崎さんに呼び止められた。

 

「由紀子さん、以前墓じまいされたのよね。ちょっと相談にのってもらえないかしら。こちら荒木さんと仰るの」

 

そういうと、江崎さんは先程のしらす煎餅をカウンターの下から出した。

しらす煎餅を持つ江崎さんの隣の女性がよろしくお願いいたします、とペコリと頭を下げた。

彼女が江崎さんに話した相談事を要約するとこういう事だ。

彼女の実家は東北で父親は数年前に他界、以後姉さん女房であった母親は一人で嫁ぎ先の家を守ってきた。

この前、父の弟である彼女の叔父から連絡がきた。

最近母親の物忘れも酷く足腰も弱くなってきた。 

今の家と土地、そして頭痛の種であるお墓をどうするのかという話だ。

家と土地に関してはまだ母親が住んでいる事だし、母親が亡くなった後は彼女が継ぐ事になるのだがこちらは何とかなる。

というのも幸い駅に近く買い手も直ぐ見つかるだろうというのが近所の不動産屋の見立てだ。

そうなると当面の課題はお墓になる。

以前彼女の父親が亡くなった後、誰がお墓を継ぐのかで話し合いがあった。

母親は年だから無理だと言い、叔父は直系である娘が良いと主張、彼女は名字が同じで近くに住んでいる叔父さんが良いと反論。

お墓の押し付けあいが始まり、文字通り草葉の陰から御先祖様が泣く事態になった。

しかし、彼女の名字が違うからお墓を引き継げないとの主張が命取りとなった。

実はお墓を継ぐのに同性である必要はないし、まして長男である必要もないのだ。

当面は母親が居るから大きな問題も起きないと考えていた。

そこでお墓を継ぐのは了承するが、普段お墓を管理するのは母親という事で一応決着した。

しかし母親一人に任せるのも限界にきている。

叔父は頼りにならない。

そこで夫と相談し以下の結論となった。

今現在、荒木家は近くの民間霊園の一画に敷地を利用する権利を有している。

幸いにしてまだお墓を作っていないので、彼女の実家である竹内家と荒木家両家のお墓、つまり両家墓を立てようという事になった。

仮に彼女の母に万が一の事があったなら、向こうで葬儀を行い遺骨を横須賀に持ってくればよい。

また荒木家の墓を取り壊しその中にある彼女の父親とその両親の遺骨も取り出して持ってくる。

反対されるのを覚悟でこの考えを母に伝えた時、案に相違して諸手を上げて賛成された。

今すぐ私だけ横須賀に行っても構わないと言われた時は苦笑すると同時に母の本音を垣間見れたそうだ。

後はゆっくり段取りを考えれば良い。

そうたかをくくっていたが予想外の事が起きた。

荒木家の墓を壊す事に叔父が猛反対してきたのだ。

祟りやら、親不孝だと主張するが察するに、自分も入るつもりだったのだ。

あれほどお墓の承継者になるのは嫌がったのにである。

更にこの叔父がお寺から遺骨を取り出すのに一体二百万かかると伝えてきた。

ご住職でもない叔父に何故そこまで指図されなきゃならないのかという反発心もあり、寺のご住職に事の真偽を確かめたが叔父の言う通りであると繰り返すだけであった。

そもそも何故叔父が墓じまいの事を知っているのか疑問であったが、何の事はない、母が話したそうだ。

これはいずれ話す事なのでやむを得ない。

しかし親戚の反対と離檀料のダブルパンチは痛い。