21.番外編・墓じまい行政書士②
「川崎さん、私も墓じまいの事は度々耳にしてたのよ。だから慎重に事を運ぼうとしたのだけど、これじゃ失敗よね。それで江崎さんに愚痴を聞いてもらおうと来たんですよ」
そう言いながら荒木さんは残り三枚のしらす煎餅のうちの一枚を口にした。
しらす煎餅残り二枚である。
「荒木さん、私も墓じまいに詳しいわけじゃないのよ。知り合いの行政書士に相談して墓じまいをしたの。良かったら聞いてみましょうか。あらもう一枚良いかしら」
しらす煎餅残り一枚。
「どうぞどうぞ。あっ、もしかして私、その人知ってるかも。エンディングノートの講師された方じゃないかしら」
「そうそう、山本先生。ちょっと頼りなさそうな人よ。意外にマイナーな知識は持ってらっしゃるの。たまに夕飯誘うと喜んでくるのよ」
「確か講座が終わった後、若い女の子と痴話げんかっぽい事してたわ。そうそう由紀子さんのご主人も知ってるわよ。あらっ最後の一枚良いかしら」
めでたくしらす煎餅完食。
「あれね、うちの娘の亜紀よ。主人を迎えにそこの行政センターに行ったら、山本先生がコミセンの職員さんにデレデレになって話しかけてたのよ。ちょうどその時に亜紀がやって来て割って入ったんだって。意外とやるのよね、あれも。そもそもはうちの娘がボヤボヤしてるからいけないのよ。さっさとくっついちゃえば良いのに」
「そんな、猫じゃあるまいし、そんな簡単にくっついたり離れたりできないわよ」
「江崎さん、川崎さん、お話し中割って入ってごめんなさいね。さっきの墓じまいの件ですけど私その先生に相談したいわ。連絡先分かるかしら」
「勿論分かりますよ。実は明日歴史サークルがあるんです。その時でよければ先生に今日の話の内容伝えておきますけど」
「本当ですか。ありがとうございます。是非お願いします」
その後荒木さんと連絡先を交換して少し話しをして店を後にした。
買い物をして家に帰ると主人が三毛猫の花子に向かってタロー、タローと呟いたあと、いやまてよタローじゃなくて何だっけかと悩む姿を見るにつけ、心底墓じまいを終わらせて良かったと思う。
背中越しにジロー、ジローと呟く声を聞きながら、ふと先生に前もって連絡した方が良いと思いなおし、先ほどの顛末を話した後、歴史サークルの前か後の時間に荒木さんを紹介する段取りをつけた。
歴史サークルの前の時間も後の時間も都合がつく山本先生はちょっと心配である。
後ろでは、タロー、ジローとくれば樺太犬、樺太犬とくればトド子と訳のわからない事を言っている。
トド子とは何ぞや。
そろそろ痴呆なのかと心配しつつ、荒木さんに待ち合わせの確認をして歴史サークルが終わったあと少し話す事に決めた。
翌日、いつものコミセンの一室で山本先生に会ったが顔色が良くなく頭を押さえてる。
風邪なのかと聞いたところ、昨夜ワンカップの日本酒を飲んだあと焼酎をウーロン茶で割って飲んだら朝から頭が痛いというのだ。
やはりこの人には亜紀のようなしっかり者が必要なのだ。
サークルが終わって自動販売機の前の椅子に山本先生と向かいあって話しこんでいると荒木さんがやってきた。