23番外編・墓じまい行政書士④

 

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「こじれたと判断するには時期尚早だと思います。まず荒木さんの叔父さんが改葬に反対なのは理解しました。ところで何故ご住職でもない叔父さんが遺骨を取り出すのに二百万なんて話を持ちだしたのでしょうか。不思議だと思いませんか。更に何故そもそも金額まで知っていたのでしょうか」

 

「叔父とご住職とで話しがついてると仰りたいのですか」

 

「実際のところは分かりませんが、その可能性はあるでしょう。仮にそうならご住職より先に叔父さんの方から離檀料の話しを持ち出した説明はつきます。正直ご住職の仰る二百万の根拠は薄弱です。まず改葬の前提ですが墓地埋葬法とその施行規則に手続きの規定があります。ところがこれらの規定に遺骨を取り出す費用、巷で言う離檀料については一切触れていません」

 

「じゃ、改葬はできると考えて良いのですか」

 

「その前に確認していただきたい書類が二点あります。お寺との檀家契約書、それから墓地使用契約書です。この二点に離檀についての規定があるかないかです。もっとも契約書なのでお寺と荒木さんのご実家である竹内さんがお持ちのはずです。もし契約書があればの話です」

 

「あるでしょうか」

 

「正直申し上げて、ある可能性はかなり低いかと思います。もっとも契約書の類がなければ同時に二百万を請求する根拠はどこからきたのでしょうか、となるわけです。更に契約書の話しを荒木さんが持ち出した時点でご住職には相当なプレッシャーになるでしょう。もし今回の話しが叔父さん主導ですすんだなら、ご住職を説き伏せる事は難しくないと思います」

 

「わかりました。とりあえず、母とお寺のご住職に確認します。もし契約書がなくてそれでもお金を請求された場合はどうすればよいでしょうか」

 

そうよね。

突っぱねられたら手のうちようがないわ。

だって遺骨を質に取られているようなものですもんね。

 

「その時にはご連絡下さい。こちらが私の名刺です。場合によっては行政に相談して指導を入れてもらう事も視野にいれます。さしあたっては契約書の確認です。もっとも今回はそこまでこじれていないと思います。他ならぬ川崎さんのご紹介ですので、できる限りサポートさせていただきますよ」

 

荒木さんは山本先生にお礼を言って帰って行った。

 

「山本先生の見立てではどうなると思いますか」

 

「こればかりは何とも言えません。改葬をするにあたって行政手続きを理解して、お寺への感謝の気持ち云々も大事です。しかしそれだけでは解決できない場合があります。今回のような場合にその解決方法まで提示できる事が大事なんです。勿論、相当厳しく私では対応できない場合、お墓に詳しい弁護士の先生を紹介します。繰り返しますが、今回の事案はそれほどこじれていないと思ってます」

 

山本先生格好いいな。

亜紀はこういうところを気にいったのかな。

 

「あっ、川崎さんちょっと失礼します」

 

そう言うと受付の窓口に立っている女性に向かって行って話し始めた。

金谷さん、何でここに居るんですか、コミセンの集まりなんですか、あっ会議ですか、僕手伝いますよ。そんな声が聞こえてくる。さながら飼い主に駆け寄る犬である。しかし金谷さんは、私忙しいんですよ、とポケットからお菓子を手渡し事務所に入っていった。

事務所の前ではお菓子を片手にボケッと突っ立っている山本先生が残された。

亜紀に伝えておこう、あの人で本当に良いのかと。

 

数日後、荒木さんから私と山本先生に連絡があった。

質問をご住職にしたところ契約書の類いは全く存在しないという事だ。

もっとも叔父さんから全て話しがついているとの連絡を受けており当方に落ち度はないと考えている。

改葬はまだ先の話しではあろうが、現状は理解したので、何かあれば相談にのるとの事であった。

二百万円の話は一切出てこなかった。

その後山本先生から臨時収入が入ったので一席設けるとの連絡があった。

 

「山本先生、私思うんだけど行政書士辞めて出家したらどうですか。あっちこっち手を出そうとした、その汚れきった心を浄めて下さい」

 

亜紀が悪態をつくが、トドは無言で頷く。

亜紀も悪のりがすぎるが先生は黙ってウーロンハイを飲んでいる。

先生、男は黙ってお酒を飲むのが似合っていますよ。