23番外編・墓じまい行政書士④

 

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「こじれたと判断するには時期尚早だと思います。まず荒木さんの叔父さんが改葬に反対なのは理解しました。ところで何故ご住職でもない叔父さんが遺骨を取り出すのに二百万なんて話を持ちだしたのでしょうか。不思議だと思いませんか。更に何故そもそも金額まで知っていたのでしょうか」

 

「叔父とご住職とで話しがついてると仰りたいのですか」

 

「実際のところは分かりませんが、その可能性はあるでしょう。仮にそうならご住職より先に叔父さんの方から離檀料の話しを持ち出した説明はつきます。正直ご住職の仰る二百万の根拠は薄弱です。まず改葬の前提ですが墓地埋葬法とその施行規則に手続きの規定があります。ところがこれらの規定に遺骨を取り出す費用、巷で言う離檀料については一切触れていません」

 

「じゃ、改葬はできると考えて良いのですか」

 

「その前に確認していただきたい書類が二点あります。お寺との檀家契約書、それから墓地使用契約書です。この二点に離檀についての規定があるかないかです。もっとも契約書なのでお寺と荒木さんのご実家である竹内さんがお持ちのはずです。もし契約書があればの話です」

 

「あるでしょうか」

 

「正直申し上げて、ある可能性はかなり低いかと思います。もっとも契約書の類がなければ同時に二百万を請求する根拠はどこからきたのでしょうか、となるわけです。更に契約書の話しを荒木さんが持ち出した時点でご住職には相当なプレッシャーになるでしょう。もし今回の話しが叔父さん主導ですすんだなら、ご住職を説き伏せる事は難しくないと思います」

 

「わかりました。とりあえず、母とお寺のご住職に確認します。もし契約書がなくてそれでもお金を請求された場合はどうすればよいでしょうか」

 

そうよね。

突っぱねられたら手のうちようがないわ。

だって遺骨を質に取られているようなものですもんね。

 

「その時にはご連絡下さい。こちらが私の名刺です。場合によっては行政に相談して指導を入れてもらう事も視野にいれます。さしあたっては契約書の確認です。もっとも今回はそこまでこじれていないと思います。他ならぬ川崎さんのご紹介ですので、できる限りサポートさせていただきますよ」

 

荒木さんは山本先生にお礼を言って帰って行った。

 

「山本先生の見立てではどうなると思いますか」

 

「こればかりは何とも言えません。改葬をするにあたって行政手続きを理解して、お寺への感謝の気持ち云々も大事です。しかしそれだけでは解決できない場合があります。今回のような場合にその解決方法まで提示できる事が大事なんです。勿論、相当厳しく私では対応できない場合、お墓に詳しい弁護士の先生を紹介します。繰り返しますが、今回の事案はそれほどこじれていないと思ってます」

 

山本先生格好いいな。

亜紀はこういうところを気にいったのかな。

 

「あっ、川崎さんちょっと失礼します」

 

そう言うと受付の窓口に立っている女性に向かって行って話し始めた。

金谷さん、何でここに居るんですか、コミセンの集まりなんですか、あっ会議ですか、僕手伝いますよ。そんな声が聞こえてくる。さながら飼い主に駆け寄る犬である。しかし金谷さんは、私忙しいんですよ、とポケットからお菓子を手渡し事務所に入っていった。

事務所の前ではお菓子を片手にボケッと突っ立っている山本先生が残された。

亜紀に伝えておこう、あの人で本当に良いのかと。

 

数日後、荒木さんから私と山本先生に連絡があった。

質問をご住職にしたところ契約書の類いは全く存在しないという事だ。

もっとも叔父さんから全て話しがついているとの連絡を受けており当方に落ち度はないと考えている。

改葬はまだ先の話しではあろうが、現状は理解したので、何かあれば相談にのるとの事であった。

二百万円の話は一切出てこなかった。

その後山本先生から臨時収入が入ったので一席設けるとの連絡があった。

 

「山本先生、私思うんだけど行政書士辞めて出家したらどうですか。あっちこっち手を出そうとした、その汚れきった心を浄めて下さい」

 

亜紀が悪態をつくが、トドは無言で頷く。

亜紀も悪のりがすぎるが先生は黙ってウーロンハイを飲んでいる。

先生、男は黙ってお酒を飲むのが似合っていますよ。

22.番外編・墓じまい行政書士③

 

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「荒木さんこっち、こっち。こちら墓じまい探偵の山本先生。行政書士が副業なんですよ」

 

「ちょっと川崎さん勘弁して下さいよ。僕、探偵じゃないです。行政書士ですよ。荒木さん、初めまして行政書士の山本です」

 

「思わず笑ってしまいました。大変失礼いたしました。荒木と申します」

 

改めて荒木さんから山本先生に概略を説明して八方塞がりになりつつある現状を説明してもらった。

暫く考えたあと山本先生は口を開いた。

 

「お話をお伺いする限り決して悲観する状況ではないと思いますよ。まずお父さんが亡くなった後で長女である荒木さんがお墓を引き継いだ。いま考えるとこれで良かったと思います。前提ですがお墓を移転する、つまり法律上は改葬と言いますが、その権利を有しているのは荒木さんです。仮にお墓を引き継いだのがお母様である場合、年齢的にも体力的にも改葬をするのは厳しいでしょう。更にもし認知が進んだ場合、お母様に後見人をつけるつけないといった話になるかもしれません。そうなるとお母様の存命中に改葬をするのは厳しいでしょう。更にお母様の今現在の生活も叔父さんに頼っている事が想定されます。叔父さんの反対を押しきっての改葬は現実的ではないでしょう。次に叔父さんがお墓を引き継いだ場合、お話を伺う限りそもそも改葬に反対する可能性が高いでしょう。現に反対しているわけですから」

 

「結果的に私がお墓を継いで正解だったという事なんですね」

 

「私はそう思います。ですから叔父さんが反対するというのは一つのご意見として拝聴し改葬の準備は粛々と進めればよいと存じます」

 

「そうなんですか。親族の反対があると墓じまい、じゃなく改葬は難しいと聞いていました」

 

「では親族の反対について掘り下げてみましょう。現在の法律では許可が下りないでしょうが、以前は様々な場所にお墓がありました。家の敷地にあったり、田んぼにあったりです。その敷地の所有権が親族名義になっていたり、親族との共有になっていると、難易度が急激にあがります。敷地の形を変更するわけですから親族の同意が必要になるでしょう。そうなるとなかなかハンコを押してくれないことが想定されます。よく聞きませんか。ハンコを押してくれないから話がすすまないと」

 

「確かにそんな話はよく聞きます。相続なんかでなかなかハンコを押してくれないとかですよね」

 

「仰る通りです。つまり親族の反対には三種類あります。①お墓を引き継ぎ、その敷地も所有しているパターン、②お墓は引き継がないが、その敷地を所有、またはその逆のパターン。しかし今回はそのいずれでもありません。③お墓も継いでおらず、その敷地も所有しておりません。今回は、荒木さんがお墓を継いでます。そしてそのお墓はお寺にあるわけです。そうするとご住職が管理者になるわけですね。ところが遺骨を取り出すのに一体二百万という話しになったわけです」

 

「そうなんです。実は私も墓じまい、正確には改葬ですよね。これは雑誌等でよく取り上げられてました。だから勉強はしたんです。ところが結局話しがこじれてしまいました」

 

そういえば私も墓じまいを頑張ったわ。

正確には主人が山本先生に相談して、主人と父が動いたんだけど。

四国まで行ったけど久しぶりに両親にも会えたし嬉しかったな。

でも今回の荒木さんの件はどうかしら。

21.番外編・墓じまい行政書士②

 

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「川崎さん、私も墓じまいの事は度々耳にしてたのよ。だから慎重に事を運ぼうとしたのだけど、これじゃ失敗よね。それで江崎さんに愚痴を聞いてもらおうと来たんですよ」

 

そう言いながら荒木さんは残り三枚のしらす煎餅のうちの一枚を口にした。

しらす煎餅残り二枚である。

 

「荒木さん、私も墓じまいに詳しいわけじゃないのよ。知り合いの行政書士に相談して墓じまいをしたの。良かったら聞いてみましょうか。あらもう一枚良いかしら」

 

しらす煎餅残り一枚。

 

「どうぞどうぞ。あっ、もしかして私、その人知ってるかも。エンディングノートの講師された方じゃないかしら」

 

「そうそう、山本先生。ちょっと頼りなさそうな人よ。意外にマイナーな知識は持ってらっしゃるの。たまに夕飯誘うと喜んでくるのよ」

 

「確か講座が終わった後、若い女の子と痴話げんかっぽい事してたわ。そうそう由紀子さんのご主人も知ってるわよ。あらっ最後の一枚良いかしら」

 

めでたくしらす煎餅完食。

 

「あれね、うちの娘の亜紀よ。主人を迎えにそこの行政センターに行ったら、山本先生がコミセンの職員さんにデレデレになって話しかけてたのよ。ちょうどその時に亜紀がやって来て割って入ったんだって。意外とやるのよね、あれも。そもそもはうちの娘がボヤボヤしてるからいけないのよ。さっさとくっついちゃえば良いのに」

 

「そんな、猫じゃあるまいし、そんな簡単にくっついたり離れたりできないわよ」

 

「江崎さん、川崎さん、お話し中割って入ってごめんなさいね。さっきの墓じまいの件ですけど私その先生に相談したいわ。連絡先分かるかしら」

 

「勿論分かりますよ。実は明日歴史サークルがあるんです。その時でよければ先生に今日の話の内容伝えておきますけど」

 

「本当ですか。ありがとうございます。是非お願いします」

 

その後荒木さんと連絡先を交換して少し話しをして店を後にした。

買い物をして家に帰ると主人が三毛猫の花子に向かってタロー、タローと呟いたあと、いやまてよタローじゃなくて何だっけかと悩む姿を見るにつけ、心底墓じまいを終わらせて良かったと思う。

背中越しにジロー、ジローと呟く声を聞きながら、ふと先生に前もって連絡した方が良いと思いなおし、先ほどの顛末を話した後、歴史サークルの前か後の時間に荒木さんを紹介する段取りをつけた。

歴史サークルの前の時間も後の時間も都合がつく山本先生はちょっと心配である。

後ろでは、タロー、ジローとくれば樺太犬、樺太犬とくればトド子と訳のわからない事を言っている。

トド子とは何ぞや。 

そろそろ痴呆なのかと心配しつつ、荒木さんに待ち合わせの確認をして歴史サークルが終わったあと少し話す事に決めた。

 

翌日、いつものコミセンの一室で山本先生に会ったが顔色が良くなく頭を押さえてる。

風邪なのかと聞いたところ、昨夜ワンカップの日本酒を飲んだあと焼酎をウーロン茶で割って飲んだら朝から頭が痛いというのだ。

やはりこの人には亜紀のようなしっかり者が必要なのだ。

サークルが終わって自動販売機の前の椅子に山本先生と向かいあって話しこんでいると荒木さんがやってきた。

 

20.番外編・墓じまい行政書士①

 

 

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小物を扱っている馴染みのお店の江崎さんからお煎餅を進められた。

「それにしてもこのお煎餅パリパリして美味しいわね。あらっ、これって、しらすかしら」

 

「そうよ、三笠公園の近くにあるお店で買ったの。日本酒にも合うわよ。まだまだあるけどどうかしら」

 

「食べたいけどこれ以上太ったら、主人や娘になんて言われるか分からないし」

 

最近、いや昨年、いやもっと前からかしら。

主人や娘の私を見る視線が明らかにおかしい。

私の顔より先にお腹のあたりをみてから再び顔を見る。

主人こと、ど忘れ四郎は自分のど忘れを棚に上げて私を、正確には私のお腹周りを見て露骨に顔をしかめる。

娘に至っては、私はお父さんに似ていくら食べても太らない、素晴らしい遺伝子に感謝と小さい声で呟く。

いくら小声でも隣に居たら嫌でも聞こえる。

おそらく私に対する当て付けね。

二人を見返す為にも少し痩せないと。

 

「由紀子さん。おーい、由紀子さん。大丈夫ですか。凄い真剣な表情ですけど、何か悩みがあれば聞きますよ」

 

あらっ、いけない、考え事をしてたせいで江崎さんの話しかける声が聞こえなかった。

まぁそれだけダイエットにかける思いは真剣だってことよ。

でも思うだけじゃ駄目なのよね。

 

「ごめんなさい、ちょっと考え事しちゃって。アハハ。じゃそろそろ帰ろうかしら」

 

ちょうどその時新しいお客さんが入ってきて、江崎さんに会釈した。

営業の邪魔をしては悪いと思い店内の商品を暫く見ていた。

二人は真剣に話しこんでいる。

私はお菓子も食べられたし、お目当ての物も買えた。

江崎さんは今のお客さんと話し始めたので、二人に会釈をしてお店を出ようとしたところで、江崎さんに呼び止められた。

 

「由紀子さん、以前墓じまいされたのよね。ちょっと相談にのってもらえないかしら。こちら荒木さんと仰るの」

 

そういうと、江崎さんは先程のしらす煎餅をカウンターの下から出した。

しらす煎餅を持つ江崎さんの隣の女性がよろしくお願いいたします、とペコリと頭を下げた。

彼女が江崎さんに話した相談事を要約するとこういう事だ。

彼女の実家は東北で父親は数年前に他界、以後姉さん女房であった母親は一人で嫁ぎ先の家を守ってきた。

この前、父の弟である彼女の叔父から連絡がきた。

最近母親の物忘れも酷く足腰も弱くなってきた。 

今の家と土地、そして頭痛の種であるお墓をどうするのかという話だ。

家と土地に関してはまだ母親が住んでいる事だし、母親が亡くなった後は彼女が継ぐ事になるのだがこちらは何とかなる。

というのも幸い駅に近く買い手も直ぐ見つかるだろうというのが近所の不動産屋の見立てだ。

そうなると当面の課題はお墓になる。

以前彼女の父親が亡くなった後、誰がお墓を継ぐのかで話し合いがあった。

母親は年だから無理だと言い、叔父は直系である娘が良いと主張、彼女は名字が同じで近くに住んでいる叔父さんが良いと反論。

お墓の押し付けあいが始まり、文字通り草葉の陰から御先祖様が泣く事態になった。

しかし、彼女の名字が違うからお墓を引き継げないとの主張が命取りとなった。

実はお墓を継ぐのに同性である必要はないし、まして長男である必要もないのだ。

当面は母親が居るから大きな問題も起きないと考えていた。

そこでお墓を継ぐのは了承するが、普段お墓を管理するのは母親という事で一応決着した。

しかし母親一人に任せるのも限界にきている。

叔父は頼りにならない。

そこで夫と相談し以下の結論となった。

今現在、荒木家は近くの民間霊園の一画に敷地を利用する権利を有している。

幸いにしてまだお墓を作っていないので、彼女の実家である竹内家と荒木家両家のお墓、つまり両家墓を立てようという事になった。

仮に彼女の母に万が一の事があったなら、向こうで葬儀を行い遺骨を横須賀に持ってくればよい。

また荒木家の墓を取り壊しその中にある彼女の父親とその両親の遺骨も取り出して持ってくる。

反対されるのを覚悟でこの考えを母に伝えた時、案に相違して諸手を上げて賛成された。

今すぐ私だけ横須賀に行っても構わないと言われた時は苦笑すると同時に母の本音を垣間見れたそうだ。

後はゆっくり段取りを考えれば良い。

そうたかをくくっていたが予想外の事が起きた。

荒木家の墓を壊す事に叔父が猛反対してきたのだ。

祟りやら、親不孝だと主張するが察するに、自分も入るつもりだったのだ。

あれほどお墓の承継者になるのは嫌がったのにである。

更にこの叔父がお寺から遺骨を取り出すのに一体二百万かかると伝えてきた。

ご住職でもない叔父に何故そこまで指図されなきゃならないのかという反発心もあり、寺のご住職に事の真偽を確かめたが叔父の言う通りであると繰り返すだけであった。

そもそも何故叔父が墓じまいの事を知っているのか疑問であったが、何の事はない、母が話したそうだ。

これはいずれ話す事なのでやむを得ない。

しかし親戚の反対と離檀料のダブルパンチは痛い。

 

 

19. 番外編・遺骨の行方③

 

 

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概略を伝えた後、先生が口を開いた。

 

「一言で言えば亡くなったお子さんの遺骨を父親のお墓に入れるか否か、という事ですよね」

 

「そうなんです。それをしたら奥さんが怒るでしょう」

 

「奥さんに言う必要はないです。仮に寺院の規則でお墓に入れるのは親族に限るとあってもお子さんであればもっとも近い存在です。今聞いたお話しですと認知はされてないようですが、お子さんと認めているとして話をすすめます。問題は奥さんを含めてご家族に内緒ですと、今はよくとも後々トラブルになる可能性は否定できません」

 

「そうですよね。難しいのは分かってますが何とかしてあげたいです」

 

「私が思い付く方法としては二つです。一つ目はその女性の言う通りにする。二つ目はその子供の為にお墓を立てる。二つ目の方法を取ったとしても問題はあります。その女性がどうしても父親と息子を一緒にしたい場合です。こうなると父親である方にある種の覚悟が必要になるでしょう」

 

「覚悟ですか」

 

「はい。父親と息子が一緒とはつまり父親が亡くなった後の話です。息子が眠るお墓に父親の遺骨を納骨する役目を誰か信頼できる相手に託す事になります。ただ亡くなった後、息子が眠る墓だけに入るのでは今の家族は納得できないでしょう」

 

話しが複雑になってきた。

そもそも家の外と中に家族があるわけだから当然だ。

 

「ではどうしたらよいでしょう。今朝食べた物を思い出せない私の頭ではお手上げです」

 

そうなのだ。

人の心配している場合ではない。

 

「大丈夫ですよ。僕は食費浮かす為に朝ご飯抜かしてますから」

 

それはそれで笑えない。

 

「やはり分骨が妥当なところかと考えます。つまり自分が亡くなった後、骨を今のお墓と、これから作るお墓に納骨するわけです。問題はそれを誰に託すか。お子様か、第三者か。勇気があれば奥様でも良いですが、あまりお勧めしません」

 

最後の一言は冗談として受け取ろう。

その後も暫く世間話しをして先生と別れた。

相談料を支払うと言ったのだが、この前ご馳走してもらったから不要と強く断られた。

珍しい、明日は雪か。

別れ際に先生がポロっとこぼした。

 

「これは単なる想像ですが、その女性は息子の死を一緒に悲しんでほしかった、ただそれだけの様な気がします」

 

数日後、久里浜の図書館で鹿島さんと会った。

先生との話を伝えてみたところ暫く押し黙り、自分が撒いた種なので自分で解決する、その為にはもう一度彼女と会って話をすると言い、私に礼を延べ帰って行った。

その後、小説を借りて館内を出た。

近くのショッピングセンターまで来た後、車で来た事に気付いて図書館の駐車場に戻った。

車に乗り込む直前少し離れた所にいる猫がこちらを向きニャーと鳴いた。

どうやら野良猫にも心配されたようだ。

複雑な気持ちで家に帰ると聞き覚えがある三人の声が聞こえてきた。

今日は四人で食事をする予定だったが忘れていた。

人間は忘れる生き物なのだ。

あるがまま受け入れるしかあるまい。

これはこれで悪くない。

忘れて困る事はエンディングノートに書いておけばよいのだ。

それにしてもお腹がすいた。

三人の顔を見に行こう。

家の中ではいつものありふれた風景が目に飛び込んできた。

トドと、やきもち焼の娘と、ちょっと抜けている先生との夕飯は、掛け値なしに美味しい。

 

18、番外編・遺骨の行方②

 

 

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「鹿島さん。この際だから懺悔のつもりで洗いざらい奥様に話したらどうですか。きっと気分が楽になって悩みなんか吹っ飛びますよ。頭を下げて土下座すれば許してくれるかもしれませんよ」

 

「土下座したからって許してなんかくれませんよ。大体今まで隠していた事が水の泡です。そんな事話したら私が妻や子供たちから吹っ飛ばされます。それができたらそもそも相談なんかしませんよ。勿論私が悪いのは重々承知しています。でも川崎さんも同じ男なんだからわかるでしょ」

 

確かに分からないこともない。

男なら願望を抱くかもしれないがそれを現実に行うかどうかはまた別問題である。

しかし残念ながら私にはそのチャンスさえないのである。

 

「ところで鹿島さん。今回の問題の落としどころはどの様に考えられているのですか。鹿島家のお墓に入れるのはご家族が納得しないでしょう。入れない場合に彼女が納得するとは思えません」

 

「仰る事はよく分かります。実は今のところ良い考えは浮かんできていません。お金で解決できるならそうしたいです。ちょっとしたはずみの相手ならそうしたでしょう。でも今回はそうじゃないです。彼女とは今の妻と結婚する前からの付き合いです。お金ではなく気持ちの問題だと思います。できれば彼女の気持ちに答えたいのですがそれは難しい。そこで川崎さんに相談しているんです。確か墓じまいをしたと仰っていましたよね。もしかしたらよい知恵をもっているんじゃないかと思って藁にもすがる思いで相談しています。何とかならないですか」

 

そんな事言われても何とかならんですよ。

墓じまいと愛人との間の子供の遺骨は論点が全く違う。

共通しているのは骨という事だけだ。

そうすると聞く相手は一人しかいない。

 

「鹿島さん、私よりもお墓に詳しい人が一人います。行政書士をやっている方です。ひとつその人に相談しようと思いますがどうでしょう。勿論鹿島さんが反対するなら止めておきます」

 

「是非お願いします。場合によっては私もお供します。こっちは藁にもすがる思いなんです。川崎さんに相談して良かったです。正直誰にも話せなくて頭を抱えていたところでした。ありがとうございます」

 

そりゃ頭も抱えたくなるだろう。

浮気相手に子供ができただけで頭は真っ白になるのが普通だ。

さらにその子が亡くなって遺骨をお墓に入れてほしいと言われ即答できる人は居ないだろう。

しかし自業自得と言えばそれまでである。

 

「鹿島さん、お礼を言うのはまだ先です。彼に話したから必ず解決できる訳ではないです」

 

「そうですよね。でも今まで誰にも話せず精神的に参ってるところがありました。話しを聞いてもらうだけでも肩の荷がおりました」

 

鹿島さんと別れた後、今日が歴史サークルの日だと気づいた。

先生の携帯にメールをしたところ運よく夕方以降時間が取れるという事だ。

つまり歴史サークルが終わった後は暇なのだろう。

バリバリ仕事をしている方だと一週間先まで仕事が入っている事などざらだろうから逆に心配になってくる。

一旦自宅に戻ってから待ち合わせ場所のコミセンに向かった。

最寄りの駅で降りて踏切りを渡り左に曲がると行政センターがあり、その中にコミセンがある。

図書室を外から覗いてみたが、松坂慶子似の職員さんはいない。

先程の鹿島さんの話を聞いた後だけに残念な気持ちが倍増する。

さらに倍率ドンというどこかで聞いたフレーズが頭をよぎる。

仕方なくコーヒーを飲みながら山本先生を待っていたらトドを含めた、何とも形容しがたい集団がやってきた。

これが噂のトドの群れか。

しかしトドは私に気付かず集団を先導しながら外に行ってしまった。

夫を何だと思ってるのかと憤懣やるせない気持ちになっているところで先生に声をかけられた。 

 

17、番外編・遺骨の行方①

 

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京浜急行久里浜駅の改札口を抜け左に曲がりバスターミナルを渡ると商店街がある。

以前は活気があったのだが残念ながら最近は閉店する店舗が目立つ。

ショッピングセンターができた影響もあるのだろうが、それだけが原因という事はないだろう。

今の時代その気になれば家から出ずに大概の物は手に入る。

本も家電も洋服もである。

これも時代の流れであろうか。

新しく出てきたものに勝てなければ、古いものは淘汰されてしまう。

世知辛い時代ではあるが、そんな中この商店街にあって孤軍奮闘しているのが、元祖札幌やである。

ここのあんかけは絶品で一度食べたらくせになる。

中華丼、かた焼きそば、サンマーメんをローテーションで食べるのが私の数少ない楽しみの一つだ。

お店の中は十人程座れるカウンターがあるがお昼の時間を避けた為比較的空いている。

そこで食事を済ませた後友人との待ち合わせの為、車で久里浜の温水プールに向かい駐車場に車を止めた。

年齢を考えるとそろそろ免許の返上も考えなくてはならない。

寂しい限りであるが仕方ない。

実際反射神経も落ちてしまっていると感じる事も多々ある。

しかし車を手放せば不便になる反面、歩く時間も増えるだろうから健康が手に入る。

悪い事ばかりではないのだ。

さてこの近くにはペリー公園がある。

歴史の教科書では必ずと言ってよいほど紹介される。

横須賀にはペリーだけに限らずこのような歴史的に有名なものが数多く存在するのである。

これらを有効活用し衰退する横須賀から活気を取り戻してほしい、そんなことを考えていると友人の鹿島さんが私の前に車を止め手を振ってやってきた。

 

「川崎さん、お忙しいところ申し訳ないです。こんな事なかなか相談できないですからね。特に妻には絶対話せないです。色々考えたのですが、やはり一緒に入れるのは難しいです。私一人の考えで決めるにはあまりに家族への影響が多きすぎます」

 

私より二回り近く年下ではあるが、なぜか気の合う鹿島さんに尋ねられた。

以前は私の部下だったのだが十年程前に退職して、自分で事業を立ち上げ今では本店に加え支店を二店舗持つようになっている。

なかなかのやり手である。

相談内容の概要はこうである。

彼には家族が居るが、内緒で長年付き合っている女性がいる。

というより内緒にせざるをえない。

確か結婚する前から付き合っている女性で結婚した後も続いていたようである。

ありていに言えば不倫である。

その女性との間に男の子をもうけているが今の家族には黙っている。

彼自身その男の子とは会っておらず認知もしていないが経済的援助はしている。

しかし給料の大半をそして今では年金の大半をトドに吸い上げられている私には羨ましい話である。

話はここからだ。

昨年その男の子が交通事故で亡くなった。

その後母親から相談があり、その男の子の遺骨を由緒正しいお寺にある鹿島家のお墓に入れてほしいと言われたそうだ。

今更自分達の事を彼の家族に伝え波風を立てるつもりは全くない。

この先も自分達の関係を口外はせず墓場まで持って行くつもりだ。

しかしせめて息子の遺骨は彼の家の墓に入れてあげたい。

彼には父親は早くに死んだと伝えていたがいつかは言わなければならないと考えていた。

しかし彼が亡くなってしまった今となってはもはや伝える事は不可能だ。

私にできる事は亡くなった彼を鹿島家のお墓に入れてあげる事だ。

16、エンディングノートと川崎家の夜

 

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時間はもうすぐ夜の八時。

飲み始めて一時間を少し過ぎたところで、三人とも酔いがまわっきた。

 

「お招き頂いてなんですが、しかもこんなに飲み食いして聞くのもなんなんですが、私お邪魔じゃないでしょか」

 

ほろ酔い加減の先生が呟いた。

 

「お邪魔だったら呼びませんよ。私達は大歓迎です。だいたい主人と二人で食べたってつまらないでしょ。イケメンならまだしもこれじゃねぇ」

 

そりゃこっちのセリフだ。

何が悲しくてトドの顔見て飯食わなきゃならんのだ。

しかし一言返せば二倍、三倍となって返ってくる。

だから腹が立っても聞き流す事にしている。

どこかの英語教材と同じである。

 

今日は亜紀の誕生日である。

昨日が歴史サークルの日で強引にトドが山本先生を誘ったようだ。

最初は遠慮していたが、ただ酒と肉の誘惑には勝てずやってきたという事だ。

酒は正月用に横須賀のデパートで買ったのがまだ残っている。

この勢いなら今日中になくなるだろう。

焼き鳥はいつも北久里浜で買うのだが、今日は横須賀中央の立ち食い焼き鳥を買ってみた。

旨い。

横須賀中央の駅の下で買った寿司もまた旨い。

不思議な事に人見知りの花子は先生の足元でくつろぎゴロゴロのどを鳴らしている。

ここまで他人の家に馴染める人も珍しい。

殆ど同化して空気の様な存在になっている。

 

「そろそろ亜紀が帰って来る時間なはずなんだけど、遅いわね。今更誕生日なんてってブツブツ言ってたんですよ。誕生日、頼まれもせず、やってくる。あらっ私ったら面白いわ」

 

テレビの見すぎだろうが、季語が入っとらん。

 

「でも亜紀ったらお寿司と焼き鳥があるって言ったら絶対行くって。誰に似てこんなに食い意地が張ってるのかしら」

 

トド、他ならぬお前じゃ。

一日の食べる量を考えたら明らかじゃよ。

 

「それにしても四人で食べるの久しぶりですね。こんなに楽しいなら毎日でも良いわ。早く亜紀帰って来ないかしらね」

 

恐らく二人を何とかしたいから、亜紀の誕生日にかこつけて声をかけたのだろう。

しかしこういうのは自然に任せるのが一番だと思う。

 

「ただいま」

 

そうこうしているうちに亜紀の帰宅だ。

 

「あらっ、皆飲んでるんだ。わっ、お寿司もあるんだ。あとで食べるから私の分も残しておいてね。因みにこの酔っぱらいどちら様。どっかでお会いしましたっけ」

 

確かどちら様は敬語だった気がする。

酔っぱらいで修飾させるのは誤用であろう。

 

「あっ、思い出しました。女たらしのバカ本先生」

 

「あのぅ、バカじゃなくて山です」

 

「えっ、金谷さん、金山さん、よく聞こえませんでした」

 

しっかり名字をチェックするところはトドにはできない芸当だ。

 

ボソッと小さい声で山本と答える。

 

「成る程、山ほど女性に手を出す山本さんですね。ところでご用件は何ですか」

 

可愛いそうに。

亜紀と付き合ってるわけでもないのに酷い言われようだ。

 

「亜紀、貴女いい加減にしなさいよ。祝ってくれる人がいないだろうからって来て下さったのに」

 

亜紀のコメカミがピクピク動く。

 

「亜紀さん、僕はそんな事これっぽちも言っていませんよ。勿論思ってもいません。お母さん今のはまずいですって。ほら怒ってますよ」

 

いかんトドは酔ってるし、先生も半笑いで焦っている感じがゼロだ。

 

「はいはい、そうやって二人で私をからかってればいいのよ」

 

亜紀の右目がピクピク動いている。

これはトドが怒る時と同じ症状だ。

やはり血は争えない。

 

「亜紀さん、お誕生日おめでとう。これどうぞ。自由ヶ丘で買ってきました」

 

すかさず先生が手渡す。

亜紀は甘い物に目がない。

とくにチョコレートは大好物だ。

食べ物の誘惑には勝てないようだ。

亜紀の目じりが下がる。

こういう事は当人同士に任せておけば良いのだ。

「こんなことぐらいじゃ機嫌はなおりませんよ。それに先生がどんな女性とお話されようと私には一切関係ないです。気にもしていませんから」

 

と言いながらしっかりプレゼントをバッグにしまった。

亜紀も言ってる内容が矛盾している。

気にしていないのに何故機嫌がわるいのか。

しかしそれはこの際どうでもよい。

私も年とともに多くの事を忘れていくに違いない。

せめて二人のやり取りは忘れずに、記憶の奥にとどめておきたい。

 

 

 

 

 

15、エンディングノートと終活講義・後半⑥

 

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「皆さん、申し訳ありません。渡すのを忘れていました。エンディングノートを作る際の注意点をまとめたレジュメです。よかったらエンディングノートを作る際の参考にして下さい。あれっ、結構人数減ってますね。帰られた方とお知り合いの方が居らっしゃいましたらこちらお渡しください。沢山作りましたので、この山本作エンディングノートレジュメ、ご友人の方にも是非お渡しください」

 

半数近く帰ってしまっている。

予想通りやはり抜けている。

最後の最後まで気を緩めては駄目なんですよ。

山崎さんと話しながら廊下に出ると先生も後を追うようにやってきたが私たちには目もくれず、金谷さんがいる方向に向かって行った。

傍目には楽しく話しているように見えるが、残念ながら金谷さんが軽くあしらっているようだ。

そんな様子を見ていると階段を上って一人の女性がやってきた。

どこかで見覚えのある女性だとよく見ると、何のことはない娘の亜紀だ。

本を返すついでに私を迎えに来たとのことだ。

しかし金谷さんと話すのに夢中で目尻も口元もデレデレになり今にも手を握りそうな勢いの先生は亜紀に気付いていない。

その二人を見つけた亜紀の右目がピクリと動いた。

怒りのサインである。

私はわざとらしく咳払いをするが当然先生には聞こえない。

そんな二人が居る方向に亜紀は向かって歩いて行った。

その足音に気付いた先生は、一旦後ろを振り向いた後、再度目を見開きながら後ろを振り向いた。

長い人生、ここまで見事な二度見を私は見た事がない。

 

「お話し中失礼します。図書室はどちらにありますか」

 

亜紀がわざとらしく金谷さんに話しかけた。

何度も図書室に来ているはずだから場所は知っているはずだ。  

この嫌らしさは間違いなく妻似だろう。

後ろ姿しか見えないが明らかに先生の背中は動揺している。

ヘビに睨まれたカエルである。

冷静に考えると亜紀と先生は別に付き合っているわけではないのだろうから堂々と金谷さんと話を続ければよいのだ。

しかしあの動揺した姿を見ると明らかに不埒な事を考えていたのだろう。

本を返した亜紀が戻ってきた。

先生が亜紀に話しかけるが塩対応されている。

ふいに二兎を追う者は一兎をも得ずということわざを思い出した。

耳にする事はあるが目の当たりにするのは初めてである。 

しかし二兎を追うような器用な真似ができるとは思えない。

その場その場で相手にいい顔するのが関の山だ。

可愛そうだが私にはどうすることもできない。

先生も、私が今日のエンディングノートの講座に参加して妻にも今日の事を話したのだから、亜紀の耳に入ることは考えなかったのだろうか。

残念ながら肝心なところで抜けていることは否めない。

金谷さんは事態を察し事務所に戻った。 

先生はあれは誤解だと亜紀に訴えているが亜紀は全く聞く耳を持たない。 

私は亜紀から車の鍵を借り、雨降って地固まってほしいと考えながらその場から離れた。

14、エンディングノートと終活講義・後半⑤

 

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「大事な事は将来の憂いに対しては、正しい知識を持って準備しておくことです」

 

先生にしては良いことを述べる。

とても自分の言葉で述べているとは思えない口振りである。

 

「引き取り手が決まったとして次に方法論をご説明します。①引き取り手の方について遺言書の中で書くまたは②引き取り手の方と契約をする事が考えられます。遺言書といっても引き取り手の方に何かを相続させるというわけではありません。共通するのは金銭を渡してペットの世話を頼む事、自分が亡くなった後に効力が生じる事です。それを①遺言でするか、②契約でするかという事です。但し、遺言の場合相手が拒否する場合もあります。契約できるのであればそれに越した事はありません。因みに①の事を負担付遺贈、②の事を負担付死因贈与と言いますがこれは聞き流して頂いて結構です。とにかく大事な事は如何にして信頼できる相手を見つけるかにつきます」

 

分かったような分からない様な状態だ。首をひねる方も居るのでやはり難しいのだろう。

 

「なかなか初めは理解するだけでも大変かもしれません。今の遺言や契約の事をペット相続なんて言ったりします。もっとも相続は人に限られますのでペットに相続させる事はできません。しかしペットを飼うことを条件に金銭を贈与する事により相続に近い事を行う事ができます」

 

話がテンポよくすすむ。

最初からこうすればよいものを。

 

「今述べた①負担付遺贈は相手がか拒否するという弱点がありますので②負担付死因贈与契約をお勧めします。しかしこちらも自分の死後、相手がペットの飼育をきちんとしているかを確認できないという弱点があります。そこでペットの飼育がなされているかを確認する死因贈与執行者を決めておく事をお勧めします」

 

いかんぞ、話しについていけない。

用語が一気に難しくなった。

左斜めの女性は口が半開きになってるぞ。

 

更に話しが続く。

ラストスパートといったところか。

 

「最後に後見制度に軽く触れたいと思います。大まかな考え方として、例えば自分が認知なり正しい判断ができなくなった時、自分の財産の管理を誰に託すかです。自分が元気なうちに家族等自分の信頼できる人に任せるか、自分が判断できなくなった時に専門家に任せるかになります。この辺りを漠然とイメージして頂けたらと思います。因みに前者が任意後見人、後者が法定後見人です。皆様疲れましたか。あと少しですよ」

 

先生の言葉が耳をこだまするが、話しの内容が右から左に流れていく。

後見という言葉は度々耳にするがやはり難しい。

 

「この後見制度についてはエンディングノートに書いてどうこうできるレベルではありません。しかしせっかくの機会ですので、是非ご自身なりに考えて頂けたらと思います。先程の法定後見人の申し立ては、慎重の上に慎重にお考え下さい。一旦法定後見人がつくと、これを取り外すのは容易ではありません。この弊害は雑誌等で伝えられています。ご興味のある方は一度調べてみる事をお勧めします。それでは、時間になりましたのでこれで終わりにします。私は一旦事務所に行きますが、また直ぐに戻ってきます。ご質問はその時にお伺いします。皆様お疲れ様でした」

 

意外といっては失礼だがまともに終わった。

普段焼き鳥食って飲んだくれてるイメージを見事にくつがえしてくれた。

 

「エンディングノートを作るのって思ったより大変なんですね。元気なうちに作った方がよいかしらね」

 

井崎さんが話しかけてきた。

私が答えようとすると先生が慌てて戻ってきた。