17、番外編・遺骨の行方①
京浜急行久里浜駅の改札口を抜け左に曲がりバスターミナルを渡ると商店街がある。
以前は活気があったのだが残念ながら最近は閉店する店舗が目立つ。
ショッピングセンターができた影響もあるのだろうが、それだけが原因という事はないだろう。
今の時代その気になれば家から出ずに大概の物は手に入る。
本も家電も洋服もである。
これも時代の流れであろうか。
新しく出てきたものに勝てなければ、古いものは淘汰されてしまう。
世知辛い時代ではあるが、そんな中この商店街にあって孤軍奮闘しているのが、元祖札幌やである。
ここのあんかけは絶品で一度食べたらくせになる。
中華丼、かた焼きそば、サンマーメんをローテーションで食べるのが私の数少ない楽しみの一つだ。
お店の中は十人程座れるカウンターがあるがお昼の時間を避けた為比較的空いている。
そこで食事を済ませた後友人との待ち合わせの為、車で久里浜の温水プールに向かい駐車場に車を止めた。
年齢を考えるとそろそろ免許の返上も考えなくてはならない。
寂しい限りであるが仕方ない。
実際反射神経も落ちてしまっていると感じる事も多々ある。
しかし車を手放せば不便になる反面、歩く時間も増えるだろうから健康が手に入る。
悪い事ばかりではないのだ。
さてこの近くにはペリー公園がある。
歴史の教科書では必ずと言ってよいほど紹介される。
横須賀にはペリーだけに限らずこのような歴史的に有名なものが数多く存在するのである。
これらを有効活用し衰退する横須賀から活気を取り戻してほしい、そんなことを考えていると友人の鹿島さんが私の前に車を止め手を振ってやってきた。
「川崎さん、お忙しいところ申し訳ないです。こんな事なかなか相談できないですからね。特に妻には絶対話せないです。色々考えたのですが、やはり一緒に入れるのは難しいです。私一人の考えで決めるにはあまりに家族への影響が多きすぎます」
私より二回り近く年下ではあるが、なぜか気の合う鹿島さんに尋ねられた。
以前は私の部下だったのだが十年程前に退職して、自分で事業を立ち上げ今では本店に加え支店を二店舗持つようになっている。
なかなかのやり手である。
相談内容の概要はこうである。
彼には家族が居るが、内緒で長年付き合っている女性がいる。
というより内緒にせざるをえない。
確か結婚する前から付き合っている女性で結婚した後も続いていたようである。
ありていに言えば不倫である。
その女性との間に男の子をもうけているが今の家族には黙っている。
彼自身その男の子とは会っておらず認知もしていないが経済的援助はしている。
しかし給料の大半をそして今では年金の大半をトドに吸い上げられている私には羨ましい話である。
話はここからだ。
昨年その男の子が交通事故で亡くなった。
その後母親から相談があり、その男の子の遺骨を由緒正しいお寺にある鹿島家のお墓に入れてほしいと言われたそうだ。
今更自分達の事を彼の家族に伝え波風を立てるつもりは全くない。
この先も自分達の関係を口外はせず墓場まで持って行くつもりだ。
しかしせめて息子の遺骨は彼の家の墓に入れてあげたい。
彼には父親は早くに死んだと伝えていたがいつかは言わなければならないと考えていた。
しかし彼が亡くなってしまった今となってはもはや伝える事は不可能だ。
私にできる事は亡くなった彼を鹿島家のお墓に入れてあげる事だ。