18、番外編・遺骨の行方②

 

 

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「鹿島さん。この際だから懺悔のつもりで洗いざらい奥様に話したらどうですか。きっと気分が楽になって悩みなんか吹っ飛びますよ。頭を下げて土下座すれば許してくれるかもしれませんよ」

 

「土下座したからって許してなんかくれませんよ。大体今まで隠していた事が水の泡です。そんな事話したら私が妻や子供たちから吹っ飛ばされます。それができたらそもそも相談なんかしませんよ。勿論私が悪いのは重々承知しています。でも川崎さんも同じ男なんだからわかるでしょ」

 

確かに分からないこともない。

男なら願望を抱くかもしれないがそれを現実に行うかどうかはまた別問題である。

しかし残念ながら私にはそのチャンスさえないのである。

 

「ところで鹿島さん。今回の問題の落としどころはどの様に考えられているのですか。鹿島家のお墓に入れるのはご家族が納得しないでしょう。入れない場合に彼女が納得するとは思えません」

 

「仰る事はよく分かります。実は今のところ良い考えは浮かんできていません。お金で解決できるならそうしたいです。ちょっとしたはずみの相手ならそうしたでしょう。でも今回はそうじゃないです。彼女とは今の妻と結婚する前からの付き合いです。お金ではなく気持ちの問題だと思います。できれば彼女の気持ちに答えたいのですがそれは難しい。そこで川崎さんに相談しているんです。確か墓じまいをしたと仰っていましたよね。もしかしたらよい知恵をもっているんじゃないかと思って藁にもすがる思いで相談しています。何とかならないですか」

 

そんな事言われても何とかならんですよ。

墓じまいと愛人との間の子供の遺骨は論点が全く違う。

共通しているのは骨という事だけだ。

そうすると聞く相手は一人しかいない。

 

「鹿島さん、私よりもお墓に詳しい人が一人います。行政書士をやっている方です。ひとつその人に相談しようと思いますがどうでしょう。勿論鹿島さんが反対するなら止めておきます」

 

「是非お願いします。場合によっては私もお供します。こっちは藁にもすがる思いなんです。川崎さんに相談して良かったです。正直誰にも話せなくて頭を抱えていたところでした。ありがとうございます」

 

そりゃ頭も抱えたくなるだろう。

浮気相手に子供ができただけで頭は真っ白になるのが普通だ。

さらにその子が亡くなって遺骨をお墓に入れてほしいと言われ即答できる人は居ないだろう。

しかし自業自得と言えばそれまでである。

 

「鹿島さん、お礼を言うのはまだ先です。彼に話したから必ず解決できる訳ではないです」

 

「そうですよね。でも今まで誰にも話せず精神的に参ってるところがありました。話しを聞いてもらうだけでも肩の荷がおりました」

 

鹿島さんと別れた後、今日が歴史サークルの日だと気づいた。

先生の携帯にメールをしたところ運よく夕方以降時間が取れるという事だ。

つまり歴史サークルが終わった後は暇なのだろう。

バリバリ仕事をしている方だと一週間先まで仕事が入っている事などざらだろうから逆に心配になってくる。

一旦自宅に戻ってから待ち合わせ場所のコミセンに向かった。

最寄りの駅で降りて踏切りを渡り左に曲がると行政センターがあり、その中にコミセンがある。

図書室を外から覗いてみたが、松坂慶子似の職員さんはいない。

先程の鹿島さんの話を聞いた後だけに残念な気持ちが倍増する。

さらに倍率ドンというどこかで聞いたフレーズが頭をよぎる。

仕方なくコーヒーを飲みながら山本先生を待っていたらトドを含めた、何とも形容しがたい集団がやってきた。

これが噂のトドの群れか。

しかしトドは私に気付かず集団を先導しながら外に行ってしまった。

夫を何だと思ってるのかと憤懣やるせない気持ちになっているところで先生に声をかけられた。