後見制度は慎重に①

駅を降りて観音崎行きのバスに乗るのよね。
途中のバス停で降りた後、少し歩いてすぐ左に曲がって暫く歩くとロータリーに着く。
直ぐ右手に診療所があってそこの二階か。

それにしても私に断りなく事務所を引っ越すってどういう事なのかしら。
別に断る必要はないけどさ。
しかし、遺言や墓じまいを専門にする行政書士の事務所が診療所の二階ってちょっと考えたわよね。
上品な神経の持ち主ならちょっと躊躇するところだわ。
でも骨壺売らないだけましかしらね。
あった、「山本行政書士事務所」。
相変わらず小さな表札よね。
さて、先生は居るかしら。
まさか昼間から飲んでるって事はないとは思うけど、どうかしら。
えっ、鍵が掛かってるんだけど。
確かに待ち合わせ時間より10分程早いけど居ないってどういう事。
ちょっと笑えないんだけど、ひょっとしてサスペンスみたいな。
しかも密室じゃない。
これで先生の死体でもあった日には、

「川崎さん」
「きゃっ」
いきなり後ろから声をかけられ一瞬息が止まりそうになった。
「山本先生、ちょっと驚かせないで下さいよ」
「すみません。僕も川崎さんが時間前に居らっしゃたので軽く驚いてます。時間前に来るとは思わなかったので、そこのお蕎麦さんでお昼食べてました」

あはは、殴っちゃおうかしら。
確かにたまに飲みに行くときは必ず私が遅れるけど、まっいいか。
先生の後を付いて事務所に入る。
中は思った以上に殺風景ね。
お花の一つくらいあっても良いのに。
「お電話では緑川様のお婆様についてでしたよね」
「はいそうです」

 

想いを紡ぐ墓じまい: in 横須賀 (∞books(ムゲンブックス) - デザインエッグ社)

想いを紡ぐ墓じまい: in 横須賀 (∞books(ムゲンブックス) - デザインエッグ社)