9、エンディングノートと終活講義・休憩②

 

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意外と言っては失礼だが、急に頼もしく見えてきた。
さて講義の後半も楽しみだと答えようとした瞬間、ちょっと失礼しますと言い残し急に部屋を出て行った。
どうやら先程の美人の職員さんが廊下を歩いているのを目敏く見つけ、金魚の糞のごとくついて行ったのだ。

いやしかし美人に弱いのにも限度というものがある。
んっ、職員さんがお菓子を手渡して笑いながら犬を追っ払う仕草をして事務所に入って行った。
軽くあしらわれたようである。

先生と同じかちょっと年上のショートカットの美人だ。
亜紀のライバル出現というところか。
先生が戻ってきた。

 

「職員さんにお腹がすいたと言ったらチョコ頂いちゃいました。物乞に見えたんですかね。失礼な話しです。ところで川崎さんもお一つどうですか」
どっから見ても物乞いだろ。
貴方にはプライドというものがないのか。
喉まで出かかったが止めておいた。
「いや、私は大丈夫です。それにしても随分綺麗な方ですが、ひょっとして今の方に講師を頼まれたのですか」
「そうなんですよ。金谷さんと仰います。とてもしっかりされた方です。なんでも講師の成り手が居ないみたいで、お願いしますって言われました」
可哀想に。
上手く手のひらで転がされている。
それに気付かないのか。
しかし娘の亜紀も男を見る目をもっと養った方が良かろう。
悪い先生ではないんだがいかんせん女性に弱すぎる。
私が呆れて黙っているのに気付かず更に話し続ける。
「何か頼られちゃってるんですよ。頼られると悪い気持ちはしないですよね。仕事で頼られる事なんて滅多にないですからね」
能天気にも程がある。
流石にそれは言い過ぎかもしれないが、そう思わせる何かがこの人にはある。
「あっ、資料を置きっぱなしにしてるので事務所に行かないと。じゃ川崎さんまた後で」
やれやれ、いったい何の資料やら。
エンディンノートの講義の資料なら教室置きっぱなしのはずだが、
大方資料を口実に先程の職員さんに会いに行ったのだろう。
そろそろ女性に追われるところをみてみたいものである。
まだ時間が少しあるので図書室を覗いてみたが、見事な程閑古鳥が鳴いている。
お隣のコミセンにある図書室は、駅前にあるせいかひっきりなしに利用者が来る。
時間があれば新聞でもゆっくり読みたいがそろそろ後半が始まる。
ふと背後から声が聞こえてきた。
先生と金谷さんという職員だ。
金谷さんの目が綺麗だ、ショートカットは似合いますね、エンディングノートの講義頑張ってますとか、訳わからん話が聞こえてくるが、金谷さんに早く教室行かないと遅れますよ、とたしなめられている。
やはり軽くあしらわれているようだ。